生命倫理

2006.12.19

DNRその後

 今日は夕方から、民医連中央病院の倫理委員会があったのですが、会議の場所に行くと、医師の一人が、NHKラジオ聞きましたよ!と声をかけてくれました。
 聞いている人はいるんですね~。

 倫理委員会では、心肺蘇生をしない指示(DNR)をめぐって議論を続けました。終末期において心肺停止に至ったとき、蘇生術(心臓マッサージ、電気ショック等)を行うかどうかの同意書作りが一つの目的です。

 最初、患者本人および家族向けの同意書を考えていたのですが、意識のしっかりしている患者に対し、DNRの同意書を一律に求めるのは難しいのではないか、いずれにしてもタイミングをはかるのは簡単なことではない、といった意見が出てくる中で、最終的に方針を大きく変えることになりました。

 DNRの同意書は作らずに、むしろ、最後まで最善の治療を尽くすこと、しかし、同時に無益な延命は行わないことを病院の指針として打ち出し、どのような場合でも心肺蘇生を希望する人には、それを申し出ることのできる余地を残すように、新たな指針を作成することになりました。

 原案作成者を申し出てくれたのは、なんと立命館大の立岩真也先生! 次回の倫理委員会が楽しみです。

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2006.04.20

終末期医療におけるDNR指示

 今日は、京都民医連中央病院倫理委員会があり、終末期医療におけるDNR指示について議論しました。
 DNR指示とは"Do not resuscitate order"の略で、終末期医療において(心肺が止まっても)心肺蘇生をしないという指示のことです。
 なぜ、このことを急に議論にしたかというと、3月、富山県で医師が患者の人工呼吸器を外し、それによって患者が死亡した事件が報じられ、それをきっかけに尊厳死を法制化する動きが加速しているという事情があります。
 尊厳死協会などは「患者が意志決定できない場合には、家族らが意志決定を代行できるよう法律で規定するのが望ましい」との見解を「尊厳死法制化を考える議員連盟」に提出しています。
 他方、安楽死・尊厳死法制化を阻止する会では「生命を短縮するのは周囲の人が楽になりたいだけ。人工呼吸器を外されて死んでいく患者の苦しさも考えるべきだ」とコメントしています。
 こうした対立した見解が明らかにされ、議論が交わされていくのは必要だと思いますが、一気に法制化にまでもっていきたい保守派議員たちも大勢いるようですので、事態は急を告げているという面もあります。

 DNR指示についての包括的なガイドラインは国内ではまだ存在していないようです。今後、尊厳死の議論がなされていく中で、モデル的役割を果たすことのできるガイドラインを作ることができればと思っています。
 今日は、もっぱら情報の整理とブレーンストーミングでしたから、具体的な案を検討するのはまだ先です。
 メンバーには、この分野にめっぽう強い社会学者の立岩真也氏(立命館大学)もいますので、委員長の私としては、心強い限りです。読売新聞の記者もさすがに情報通で大いに助けられています。

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2006.02.09

日本におけるES細胞研究の現状

 明日10日、キム・ヒョプヤン先生によるES細胞研究をめぐる講演がありますが、日本における、これまでの経緯と現状を知るためには、次の本がきわめて有益です。

島薗進『いのちの始まりの生命倫理――受精卵・クローン胚の作成・利用は認められるか』春秋社、2006年。

 出版されたばかりの本です。島薗先生(東京大学)は宗教学を専門とされていますが、国の生命倫理専門調査会のメンバーとして、ES細胞研究のあり方について審議してこられ、上記の本はその経緯をまとめられたものです。細かい議論もたくさんありますが、良質のドキュメンタリー番組を見たような充足感を与えてくれます。

 さらに言えば、危機感を喚起してくれる書でもあります。というのも、ES細胞研究の承認を強引に取り付けた内幕も描かれており、そうした結論の出し方に反対して提出された「共同意見書」(対案)の執筆者の一人が島薗先生だからです。

 この一件については、昨年7月に新聞報道を見ながら、強引な幕引きだな、という印象を持っていましたが、どのような内部事情があったのかを上記書物は教えてくれます。

 「あとがき」の最後にある島薗先生の言葉「今後の日本の国レベルでの生命倫理の審議は、いわば一から出直しといういうべきところにある」は、思い意味を持っています。

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2006.02.02

輸血拒否患者への対応

 今日は、民医連中央病院の倫理委員会がありました。議題の一つは「輸血拒否患者への対応」に関してでした。
 具体的に言うと、エホバの証人の患者に対し、無輸血治療(手術)を約束することができるかどうか、という問題です。一般的な事例として、エホバの証人による輸血拒否の問題は理解していたつもりですが、実際の来院患者を念頭に置きながら、この問題を考えると、さすがにシリアスにならざるを得ません。

 この件に関する、これまでの病院の基本的な姿勢は、無輸血手術はしない、というものでした。言い換えるなら、輸血の同意書を拒否する患者には治療行為は行わず、他の病院を紹介する、というものです。

 エホバの証人が病院に出された「輸血謝絶 兼 免責証書」も見ました。また、倫理委員のメンバーには弁護士もいますので、実際に関われた裁判事例を聞くことができました。さらに、これまで病院が関与した事例も聞きました。いろいろな情報を知れば知るほど、あらためて奥の深い問題であることを感じました。これは、決してエホバの証人が起こしている特殊なトラブルとしてとらえるべきではなく、医療とは何か、治療とは何か、を考えさせる、かなり普遍的な問題提起を含んでいると思います。

 医師からの切実な思いも吐露されました。輸血を絶対必要とする手術はそう多くない、しかし、いざというときのために輸血の同意書は必要であり、それがないというのは、心理的にかなり大きなプレッシャーになる、というものでした。

 わたしは一応、宗教の専門家でもあるので(この倫理委員会では、その方面の役割を果たすことは皆無に近いですが)、エホバの証人について、簡単な説明をしました。

 かなり大きな問題なので、継続して議論することになりますが、今回、基本的な方針として決めたのは、従来の方針をあらためて、無輸血治療もできる方向で考えよう、ということです。これは大きな方向転換です。
 実際に、どの分野で無輸血手術を引き受けることができるかどうかの技術面での整理を次回に行う予定です。
 この大胆な方向転換は、わたしがあおっているわけではありませんが(多少、そういう面はありますが・・・(^_^;))、治療の選択肢の幅を広げていくためにも、重要な試金石になると思います。今後の議論のキーワードは、患者の「自己決定権」、医師の「良心的診療拒否」になりそうです。

■エホバの証人(日本語)
http://www.watchtower.org/languages/japanese/

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2005.09.06

「医療倫理に対する宗教学的アプローチ」

 

小原克博 On-Line に「医療倫理に対する宗教学的アプローチ」(『民医連医療』2005年9月号)を掲載しました。
 これは、わたしが目下、京都民医連中央病院の倫理委員会委員長をしている関係から依頼された論考です。医療倫理委員会の特集の一部となっています。
 一部(カルヴァンの予定説など)難しい箇所もあるかもしれませんが、全体としては読みやすく書いたつもりですので、関心ある方はご一読ください。

■「医療倫理に対する宗教学的アプローチ」
http://theology.doshisha.ac.jp:8008/kkohara/works.nsf/
626e6035eadbb4cd85256499006b15a6/5bc776a479adb5f549257072004f20cf?OpenDocument

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2005.07.16

中絶胎児の研究利用をめぐって

050716 今日は、日本クリスチャンアカデミー関西セミナーハウスで、京大の福島雅典先生による「中絶胎児の研究利用をめぐって」と題した講演会に参加しました(企画した側ですが)。
 福島先生は昨年、朝日新聞の「私の視点」でこの件について触れ、「日本の哲学、倫理学、宗教は、再生医学が描く「不死への夢と幻想」に屈するほど脆弱なのか」という問いかけをされていました。この問いかけが非常に鮮烈に記憶に残っており、ぜひ福島先生をお招きしたいと考えた次第です。
 結論から言うなら、中絶胎児の研究利用は容認できない、ということですが、そこには福島先生の生命観があります。福島先生によれば、精子と卵子が受精した瞬間に人間としての生命が始まっているのであり、医学的な視点から見て、このことは論をまたない、ということでした。他方、9週以内のmedical abortionは認めざるを得ないとされているので、矛盾を感じなくもないのですが、とにかく、非常に明確な胎児の生命擁護の立場に立っておられました。日本の医学界で、この線で主張を展開するのは、かなり勇気のいることだと思います。
 ビジネスとべったりと結びついてしまった現代科学に対する批判も辛らつで、哲学のない科学は凶器(狂気)である、と語っておられました。

 ご自身は、携帯電話も車ももっておられず、テレビも見ないとのこと。多くの人が携帯の虜になってしまっていることは、おぞましいことだともおっしゃっていました。

 このプログラムは、1時間半講演、1時間半質疑応答なので、けっこう楽しめます。わたしは、生命の始まりの部分に対して疑問を呈したり、中絶の権利をめぐる米国での議論を紹介したりしたので、胎児の生命至上主義の方から、「もっとしっかりしてください!」と文句を言われたりしました。(^_^;)

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2005.06.02

ターミナル・セデーション

 今日は民医連中央病院の倫理委員会がありました。議題はいろいろあったのですが、継続しているテーマの一つは、ターミナルセデーションのガイドライン作り。第4次案を検討したのですが、ゴールに至るまではもうしばらくかかりそうです。ターミナル・セデーションとは、簡単に言えば、末期の苦痛を取り除く(鎮静)させることです。
 今日おもしろかったのは、最近出たばかりの、日本緩和医療学会による「苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン」を見ることができ、それとの比較が行えたことです。このガイドラインは、権威ある学会から出されたものなので、中身もご立派ですが、いくつかの点で、私たちが行ってきた議論との明確な相違がありました。
 一つは鎮静の対象に、心理的・実存的苦痛を入れるか、入れないか。わたしたちは、これを鎮静の対象からは削除しましたが、日本緩和医療学会のガイドラインはこれを対象としています。
 心理的苦痛を対象にすると、「もう死にたい」という欲求・絶望感から投薬することになり、限りなく「安楽死」の実施に近づいていきます。また、心理的苦痛を取り除くために意識をなくしてしまうというのは問題解決の方法を間違えていると考えます。
 そのほか、家族の同意が必要か不要か等(私たちの立場は「不要」)、相違点があり、これを明確にしていくことは、一見、権威あるガイドラインに楯突いているようにも見えますが、より深い論議を展開していくためには必要な作業であると思っています。
 夏頃には完成させることができればと願っています。

 たまたま、今日の授業で、安楽死などを扱ったのですが、授業に対する感想文の中に次のようなものがありました。
 「私の理想の死に方は、とびきりお気に入りの服を着て、キラキラのかわいい棺桶を作って、睡眠薬を飲むやり方です。やっぱりキレイに死にたい。・・・」
 私たちが作製しているガイドラインの意味など吹き飛ばしてしまうような、現代っ子らしい表現ですが、こういう願望が将来の医療に反映されるためには、安楽死の是非をはじめ、まだまだ多くの議論が必要です。

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2005.01.14

中央病院・倫理委員会

 13日の晩は、民医連中央病院倫理委員会がありました。
 以前にも「胎児超音波検査におけるNT(nuchal translucency)の取り扱いに関するガイドライン」ができたことを、ここでも紹介しましたが、それが各方面から注目されつつあることの報告を聞くことができました。
 NHKの「クローズアップ現代」が出生前診断についての特集番組を企画しているようで、そのために、中央病院に取材に来たとのことでした。NHKが東京からわざわざ来たことを考えると、やはりNTのガイドラインは、全国的にも、まだ例がないのだろうと思いました。
 いずれにせよ、時間をかけて作ったものだけに、様々な形で、今後の議論のたたき台になっていることは喜ばしいことです。
 ただ、今は結論としてのガイドラインが掲載されているだけで、どういう議論がなされたのかというプロセスの部分が掲載されていません。早急に議事録も整理して欲しいと事務局にお願いしておきました。
 議論の中で、いくつも重要な論点が現れてきましたので、結果と共に、その論点や議論の内容を整理することが大事です。で、そういうことを委員会でも発言したのですが、「やはり、委員長がまとめるべきですね」という声が出て、結局、墓穴を掘る羽目に・・・
 出生前診断を行政主導でがんがん進めている英国の事例などと比較しながら、いずれ、このことを論文風にまとめようと思います。

 今は、ターミナル・セデーションという、死期を間近に迎えた段階で、患者の意識レベルを意図的に低下させて、身体的苦痛を感じなくさせる治療についてのガイドラインを作成している最中です。一歩間違えると、安楽死に限りなく近づいていきますので、これも簡単ではありません。しかし、多くの患者がたどる道でもあるので、よりよいものを作成し、社会的にも問題提起になればと思っています。
 今、国会で安楽死法が準備されつつあるようですし、そうした動きも意識する必要がありそうです。

■胎児超音波検査におけるNT(nuchal translucency)の取り扱いに関するガイドライン
http://kyoto-min-iren-c-hp.jp/rinri/gijiroku/ntguideline.html

■患者様への説明用紙
http://kyoto-min-iren-c-hp.jp/rinri/gijiroku/setsumei.html

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